LOGIN「――これより、模擬事件演習を開始する! 制限時間は六十分! 健闘を祈る!」
鬼瓦教官の号令が、磨かれた廊下に反響し、緊張の粒を振りまいた。新入生たちは一斉に第一美術室の扉へと雪崩れ込み、空気の温度が一段低くなる。 油彩と洗い残した松ヤニ、石膏粉の乾いた匂い――美術室特有の匂いが、初めての現場に踏み入った彼らの鼻腔を刺す。 最下位チーム『ラストホープ』――猛、青野、白河――も他の生徒の流れに続いて入室した。それぞれが抱く焦りと期待の温度は違うが、「ここで点を取らねば終わる」という自覚だけは奇妙な一致を見ていた。 彼らを迎えたのは、美術室特有の匂いだけではない。部屋中央――展示の主役として据えられているはずの銅像『思索する猫』が、忽然と消えている。空っぽの展示台が、かえって不在の輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。 さらに、奥の窓が数センチ開いており、窓枠には泥を含んだ小さな靴底の痕が二つ、内外に跨ぐように残されていた。 生徒たちが散開し、現場の情報を拾い始めた矢先、扉口で顔面蒼白の女性が声を上げる。 「あ、ああ……! ない! ないわ! 私の『思索する猫』がっ!」 被害者役の美術教師にして美術部顧問、|彩吹詩織《あやぶき しおり》。彼女は段取り通りに、生徒たちと同時に入室し、発見したこの惨状を告げる。 目尻には涙の縁をにじませており、その演技っぷりはやや大仰にも思える。 「先生、落ち着いてください」 序列一位『プロミネンス』の神楽坂が最短の距離で近づき、声のトーンだけで場を制する。隣で西園寺玲華が手帳を開き、轟周平は室内の出入口と窓の位置関係を無言で測る。三人は練れた連携を、言葉少なに立ち上げていた。 「一体、何があったのですか?」 「わ、私にも……! 最後に像を確認したのは、今日の九時五十分ごろ。その時は確かに、あの展示台の上にありました。それから隣の準備室に十分ほど用があって……十時ちょうどに戻ったら、この有様で……!」 彩吹は震える息の合間に必要な情報を置く。盗まれた『思索する猫』は高さ三十センチ、重さ五キロほど。片手で軽々とはいかないが、両腕ならば持ち運びは可能――犯人像の幅を、敢えて広げる数値だ。 鬼瓦がそこで区切るように、重々しく口を開く 「――つまり、犯行が可能なのは彩吹先生が部屋を空けていた九時五十分から十時までの十分間」 ざわ、と小さな波が教室全体を撫でる。 「この『空白の十分間』について、廊下の監視カメラを確認した。少なくとも三名の上級生が美術室に出入りしており、彼らが重要参考人となる」 鬼瓦は手元の資料をめくり、要点だけを拾い上げる。 「一人目、二年、|小鳥遊翼《たかなし つばさ》。美術部所属。九時五十二分ごろ入室、二分後の五十四分に退室。『昨日の部活で使ったヘラを取りに来た。その時は像はあった』と証言」 猛は短くうなずく。美術部員――であれば、この部屋のことをよく知っているはずだ、と彼の直感が告げる。 「二人目、二年、|熊谷剛《くまがい ごう》。柔道部所属。九時五十五分ごろ、教師に頼まれた荷物の運搬のため入室。入り口付近に荷物を置き、九時五十六分に退室。『急いでいたので展示台は見ていない。像があったかは不明』とのことだ」 青野はその曖昧さに軽く眉を動かす。不明――曖昧な記憶は嘘より扱いが厄介だと、彼は経験的に知っている。 「三人目、二年、|姫川咲《ひめかわ さき》。生徒会所属。九時五十七分入室、九時五十九分退室。『授業で使う石膏像を借りに来た。猫の像はなかったように思う』と証言している」 白河はタブレットの画面を指先で素早く掃く。 小鳥遊の『あった』と姫川の『なかった』――像に関する主張は表裏だ。そして、間に挟まる熊谷の『不明』が不安定な橋のように横たわる。 時間配列と三人の主張――彼女の頭の中で、透明な見取り図が線を増やしていく。 「以上三名が重要参考人だ。もちろん、彼らの中に犯人がいる可能性も大いにある。ただし退出時、いずれの手にも銅像はなかった。三名は別室待機中だが、まもなくこの部屋へ来る。必要に応じて現場で聴取を行え。時間は限られているぞ」 鬼瓦の言葉が終わるや、視線がふたたび現場へと降り注ぐ。 開いた窓。泥の付いた窓枠。空っぽの台。床板の微かな擦れ跡。無造作に見えて意味を持ちうる全て。 六十分の砂時計は、音もなく落ち始めていた。 猛は、やるべき順序を素早く並べる。まずは現場――体を動かせる場所から入るのが自分には最良だ。手触り、重さ、距離感。目に見えるものの物理を確かめれば、いつか真実に辿り着く――そう信じている。 彼は展示台へ向かう足を一歩踏み出し、拳を無意識に握り直した。 青野は、捜査の骨組みを頭の中で立ち上げる。重要参考人の三名、証言の揺れ、物証の主張――まずは現場の情報を精査し、証言に裏付けの糸を通す。 そのための聴取順、質問の設計、言葉の温度――自身の得意領域における作戦を練り上げ始めた。 白河は、情報の海に落ち着いて潜る。窓が開いているのは『出入口』を示すが、開いていること自体が『演出』である可能性。 泥の付着は外から内か、内から外か。踏面の幅、斑点の間隔、窓台の高さから割り出せる身体的条件。 犯行時間の短さと像の重量から導かれる運搬経路。 相関の線が幾本も走り始める。彼女の思考はやがて、矛盾と整合の差分が浮かぶ地点に収束していく。 周囲では上位チームが分担を手際よく決め、素早く測距し、写真を押さえ、彩吹への一次聴取を始めている。 神楽坂は視線でチームを動かし、西園寺は展示台周辺の証拠を丁寧に回収、轟は窓の外の植え込みの踏み荒らしを一歩で確かめた。 彼らに迷いはない。勝ち方を知る者の動きだ。 対して『ラストホープ』の三人は、まだ合図なくして合奏を始める段階にいる。 偽りの証拠と真の痕跡が隣り合って置かれた美術室で、落ちこぼれチーム『ラストホープ』の捜査は、いま静かに幕を開けた。 ここから先は、観察と洞察と論理の合奏ができるかどうか――そして、三人の強みが一本の矢として放てるかどうかに、すべてが懸かっている。食堂での聞き込みを終え、再び二階の書斎へと戻ってきたラストホープの三人。 血の匂いと紙とインクの匂いが入り混じる重苦しい空気は、先ほどと変わらず部屋に淀んでいたが、三人の胸中には、さっきまではなかった「次に何をすべきか」という明確な目的意識が共有されていた。「……結局、アリバイじゃ誰も絞れなかったな」 書斎の入口で立ち止まり、猛が悔しそうに呟く。取り調べで何か決定的な矛盾を暴けると期待していた分、肩透かしを食らったような苛立ちが残っていた。「ええ。皆さん、見事にアリバイがないか、あっても証明できないものばかりでした。もっとも、それは犯人の狙い通りなのかもしれませんが」 青野は、感情を抑えた声で冷静に答える。容疑者たちの言葉は、どれも慎重に選ばれており、決定打にはほど遠い――そう判断していた。「容疑者の『言葉』だけを追っていては、これ以上の進展は望めそうにありません」 その横で白河は、黙ってタブレット端末に視線を落としていた。先ほどの聞き込みで得た情報と、現場で記録したデータが、彼女の頭の中で何度も組み替えられ、照合されている。「となれば、次に我々が注目すべきは『物』――物理的な証拠、そして、この『黒百合邸』そのものの構造です」 青野は書斎全体をぐるりと見渡しながら言う。「この完全な密室を可能にしたトリックが、必ずどこかに隠されているはずです。そのためには――」 彼はそこで言葉を切ると、一度書斎を出て一階へと降り、再び皆が集まっている食堂へと戻った。そして、滞在者と黒田を前に、丁寧に頭を下げる。「皆さん――何度も申し訳ありません。捜査のため、この館、特にこの書斎周辺の詳細な設計図をご提供いただきたいのですが――どなたかご存知ありませんか?」 その問いに、即座に反応を示したのは鷹宮だった。「設計図、ですか。承知しました。財前様の書庫に保管されているものがありますので、すぐにお持ちします」 淀みのない返答。協力を惜しまない態度は、秘書として模範的ともいえた。
猛、青野、白河の三人は、血の匂いの残る書斎を後にし、重たい空気をそのまま引きずるように一階の食堂へと向かった。 そこには、すでに管理人・黒田の指示で残りの滞在者――鷹宮、綾小路、久我――が集められていた。三人とも椅子に腰掛けてはいるものの、誰一人として落ち着いている者はいない。硬くこわばった表情の下には、それぞれ不安や動揺、そしてそれだけではない、何かもっと複雑な感情を必死に押し隠している気配があった。「黒田さん、ありがとうございます――皆さんには状況は?」 食堂に入ると、青野がまず黒田に確認する。彼の声は落ち着いていたが、内心では「ここから先の一言一言が、この場の空気を決定づける」と慎重に言葉を選んでいた。「ああ――財前様が書斎でお亡くなりになったことは既に伝えてある」 黒田は短く答える。その瞬間、テーブルの空気がさらに重く沈んだ。「そんな……ひどいわ……」 綾小路は、あらかじめ用意されていたかのようにハンカチで口元を押さえ、大げさとも取れる仕草で目元を押さえる。だが、彼女の涙には本物の動揺と、同時に「周囲にどう見られるか」を計算する冷静さが混在していた。 久我は、沈痛な表情で静かに目を伏せる。彼の胸中には、かつて会社を奪われた相手が「死んだ」という事実が、複雑な感情を呼び起こしていた。憎悪、安堵、罪悪感――それらが渦を巻き、簡単に言葉に出来る状態ではない。 鷹宮は、表情こそほとんど変えないものの、眉間にごくわずかなしわを寄せていた。長年仕えてきた主の突然の死に、忠誠心から来る衝撃と、心のどこかで抑え込んできた鬱屈が揺さぶられている。「ありがとうございます」 青野は黒田に礼を述べ、今度は食堂全体に向けて口を開いた。「念のため、基本的な確認をさせてください。昨夜から今朝にかけて、外部から誰かが侵入した形跡、あるいは館のセキュリティに異常はありませんでしたか?」「それは断じてあり得ん」 黒田は即答した。答えをあらかじめ用意していたかのように、一切の迷いがない。「昨夜
『――制限時間内に真相を突き止めろ! 以上だ!』 鬼瓦教官の通信は、それだけを告げると一方的に途切れた。書斎に踏み込んだ猛、青野、白河の三人は、しばし言葉を失って立ち尽くす。 目の前には、重厚なデスクの前で崩れ落ちるように倒れた財前剛三の亡骸。床一面に飛び散った血痕はまだ完全には乾ききっておらず、鉄錆にも似た生臭い匂いが、古い書物の匂いと混ざり合って部屋を満たしていた。 その傍らには、黒百合を模したブロンズ製オブジェが転がり、その先端には生々しい血がこびりついている。 演習とはいえ、目の前の光景はあまりにも生々しい。猛はごくりと喉を鳴らした。これまで学園で経験してきたどの模擬事件よりも、死が近く、重く感じられる。 頭では演習だと理解していながら、身体は本能的に本物の現場だと判断しているのだ。 最初に我に返って動いたのは青野だった。驚愕と緊張を、いつもの飄々とした仮面の裏に素早く押し込み、瞬時にやるべきことを組み立てる。「っ――まずは現場検証ですね」 彼は二人へ向き直ると、手早く指示を飛ばした。「赤星くんは、破られたドアと窓の状況を再確認してください。力ずくで開けられないか、外側から細工された痕跡がないか、徹底的に」「あ、ああ!」 「白河さんは現場全体の記録と、鍵や閂周辺、窓枠などの微細な痕跡の調査を。僕は全体の指揮と記録に回ります。それから黒田さん、この館にいる他の方々を一箇所に集めておいていただけますか?」「わかった――食堂に集めておこう」 黒田が短く答える。 青野は礼を述べると、すぐさま自身も動き出した。かつての演習で培った役割分担の感覚が、三人の中に根付きつつある。猛も白河も、動揺を抱えながらも頷き、それぞれの持ち場へと散っていった。 * * * 猛はまず、破壊されたドアを確認した。先ほど黒田と二人がかりで体当たりした衝撃で、閂の受け金具部分が砕け、木片が内側に飛び散っている。「閂は……
黒百合邸で迎える最初の夜。館のダイニングルームには重厚なマホガニーのテーブルが据えられ、天井から吊るされた豪奢だがどこか古めかしいシャンデリアが、鈍く黄味を帯びた光をかすかに瞬かせていた。 テーブルを囲むのは、管理人の黒田、四人の滞在者、そして『ラストホープ』の三人。磨き上げられた銀器の音だけが、張り詰めた空気を細く切り裂いていく。 料理は文句の付けようのない一級品だった。前菜からメインに至るまで、盛り付けも味も洗練されている。だが、それを心から享受している者はほとんどいなかった。特に滞在者たちの間には、取り繕った会話の裏で、別種の刃が何度も交わされている。「そういえば、今回は来てくれて光栄だよ、南川建設の元社長さん――いや、もう肩書きは返上したんだったかな」 財前が、わざとらしい笑みを浮かべて久我に視線を向けた。口調は冗談めいているが、その下にある優越感は隠そうともしていない。「……そう、ですね。私の会社を掠め取られるという出来事はありましたが、今は友人と……思っていますので」 久我は、表向きは柔和な笑顔のまま答えた。その声音は穏やかだが、青野には、その瞳の奥に、一瞬だけ冷たい光が走ったのがはっきり見えた。 南川建設が財前の企業に吸収された――事実の経緯には色々あるのだろう。少なくとも、表に出さないだけで、久我の内側に燃える感情は、友愛とはほど遠いものだと、青野は確信する。「フン、そう言うでない。現に私の会社の一部門となって以来、業績は鰻上りだ。君の経営でいるより、あの会社も幸せだっただろう」 財前は久我の言葉を鼻で笑い飛ばし、見下ろすような視線を投げた。久我は表情を崩さない。 「ええ、全くもって財前さんのおっしゃる通りです」とだけ返し、静かにスープをすくう。その礼節ある態度が、むしろ抑え込まれた感情の深さを示しているようにも見えた。 財前は、次に傍らに控える秘書兼ボディガードの鷹宮へと向き直る。「鷹宮くん、明日の朝一番で、例の企業との契約を東京本社へ結びに行く。至急、プライベートジェットの手配を頼む」
不知火探偵学園を出て専用車に揺られること約一時間。鬱蒼とした森を縫う山道へ入ると、窓の外は深い霧に沈み、世界は輪郭を失った。車内の三人――猛、青野、白河――は、それぞれに同じ感覚を覚える。 ――濃霧は単なる天候ではなく、外界との連絡を断ち切る幕のようだと。 猛は未知の現場が近づく高揚とわずかな緊張に喉が乾き、青野は隔絶は演出として非常に効果的だと冷静に評価し、白河は視界を奪う白さに、情報が削がれていく心細さを胸の奥に抱く。 やがて車は古びた鉄門の前で止まった。蔦に覆われたプレートには、辛うじて『黒百合邸』の文字。運転手がリモコンを押すと、きしむ音とともに門が開き、車は敷地内へと滑り込む。 霧がほどけ、館が姿を現す。重厚な石造りの洋館に、純和風の家屋が寄り添い、異なる時代と文化が無理やり結婚させられたような接合部を晒していた。 意匠の細やかな出窓やバルコニーのすぐ隣に、風雪に耐えた瓦屋根が重なる。庭園も同じく混交している。西洋式の幾何学的花壇の途切れに、苔むした灯籠が唐突に立つ。黒々とした土の片隅には、名の由来を誇示するかのように、妖しく濃い紫の黒百合が霧雨に濡れて俯き、甘い匂いを微かに放っていた。 総じて美しい――ただし、どこか手入れが斑で、意図して不気味さを残しているようでもある。赤星は思わず息をのむ。写真の印象など浅かったのだと、目の前の異形の調和が教えた。 玄関ポーチに車が停まる。重い扉が静かに開き、初老の男性が姿を見せた。背筋は真っ直ぐ、顔には深い皺、眼光は鋭い。年の頃は六十前後、仕立ての良いスーツの落ち着きが、むしろ隙のなさを際立たせる。「ラストホープの諸君だな。学園より話は聞いている――この館の調査ということだったな。この館の管理人、黒田巌だ。ようこそ、黒百合邸へ」 低く通る声。必要最小限の情報だけを与え、それ以上を渡す気はないと、挨拶そのものが示している。三人は、今回の訪問の表向きの理由が『館の調査』であることを改めて胸に置いた。 * * * ホールに入ると、既に四人の男女が待っていた。黒田は
七月――期末考査の足音が近づくとともに、不知火探偵学園には、浮き足立つざわめきと、糸のように張り詰めた緊張が同居し始めた。 梅雨は明け、空はようやく薄藍を取り戻しつつあるのに、生徒たちの心の湿度だけは下がらない。廊下や談話室では、声を潜めた噂が行き交う「今年はどんな形式だ」「実技で転ぶと致命的だ」「序列は動くか」 その一つひとつが、試験の名を借りた再編の季節を告げていた。『ラストホープ』の三人も、例外ではない。序列は依然として最下位。彼らにとって期末考査は、名実ともに生き残りを賭けた戦場となる。圧は日ごとに重くなり、肩にのしかかって、呼吸の深さを奪っていく。 そして運命の朝、ホームルーム。教壇に立つ担任――鬼瓦の表情は、いつも以上に岩のように険しかった。「――静かにしろ! これから、一学期期末考査の詳細を発表する!」 一喝で空気が締まる。視線が一斉に教壇へ吸い寄せられた。「今年度の期末考査は、各チームに個別の特別演習を科し、その成果を総合評価する!」「個別演習!?」「チームごとに違う課題ってことか?」 教室がざわめく。これまでの実技試験では学年全体で同じ事件の解決に臨むというものであったため、全く異なる形式に、戸惑いの声が上がった。 鬼瓦はざわめきを意に介さず、名簿を読み上げていく。チームごとに課題が記載されたデータファイルが配布され、液晶画面に次々と新しい見出しが開く。「チーム・プロミネンスは、第三演習場での連続殺人事件対処訓練」「チーム・グリフォンは、過去の未解決事件の再捜査レポート提出」 課題は多岐にわたり、似たものは一つとしてない。最後に、その名が呼ばれた。「――ラストホープ!」 三人の背筋がわずかに強張る。「貴様らには、学外施設『黒百合邸』にて、一泊二日の実地調査演習を行ってもらう!」 教室に小さな波紋が広がる。 猛は思わず目を丸くした。学外、それも泊まり込み――他